江戸のデリバリー⑮ 灯す人たち


《徳用奥羽屋》

大政奉還後の政局を諷刺したもの、
戊辰戦争の戦場が奥州へ移った後、
作られたものです。
ろうそく屋の暖簾は、
「徳用奥羽屋」とあるが…
横線はかなり極細です。
算盤を弾く大番頭の
着物には「アイツ」の字、
ろうそく商の屋号は奥羽屋
旧幕派の東北諸藩。
値段を掛け合うのは、
「モウリ」の地柄。

《今様職人尽百人一首》蝋燭屋

ろうそく は会津の名産でした。
会津領主の芦名盛信が、
室町時代に漆樹の栽培を勧め、
実から採れる蝋で
作らせたことが始まり。
江戸期になると、
「会津の絵ろうそく」
参勤交代の度に
献上されていたそうです。

《職人尽絵詞》より

櫨の木の実も使われたとか…
搾り取った木蝋を火で溶かし、
天日干し、蝋を塗り重ねて
太くするのは気が遠くなる
作業であったのです。
蝋燭は極めて貴重

高価なものだったことが
想像できます。

『千代田之御表』「御謡初」
 楊洲周延 画

謡初(うたいぞめ)」とは、
江戸城での正月行事。
戦国時代の夜中の行軍は
松明を手に持ち、
陣中ではかがり火が
焚かれていました。

さすがの江戸城内、
蝋燭が乱立しています。
ここまで灯すと、
明るかったでしょうね。

《江戸名所百人美女 千住》
 三代 歌川豊国


外出用の照明器具には、
提灯よりも行灯
行く手の灯り…
ルーツが漢字にひそみます。
行灯には
灯油 (ともしあぶら)には、
菜種油や魚油が
用いられましたが、
庶民のほとんどは魚油。

《浮世姿吉原大全 名代の座舗》
 渓斎英泉


安かったけれども、
燃えるときに大量の煙、
そして魚の生臭いニオイ
遊郭で使う行灯の灯油は、
当然如く上等な菜種油でした。

『岡場所錦絵 辰巳八景ノ内』
 香蝶楼国貞 


江戸時代中期以降になると、
蝋燭の生産が多少増えたこと、
蝋燭のリサイクルが進んで、
次第に一般にも広く
使われるようになりました。
提灯も徐々に広がりますが、
遊郭で使われる「ぶら提灯」は、
一般より少し大きめです。

『岡場所錦絵 辰巳八景ノ内』
 香蝶楼国貞 


蝋燭に火を灯すと
下に蝋が溶けて流れます。
「蝋燭の流れ買い」
という商売が成立し、
町々を歩き流れた蝋を
量って買っていったとか…
流れた蝋のには美しい名、
「蝋涙 (ろうるい)」
と呼んだそうです。

《座敷八景 あんどんの夕照」》
 鈴木春信


行灯の明るさは豆電球くらい
だったそうでして…
あくまで「あかり」。
「照明」にはどこか機械的な
響きを感じさせますね、
行灯のあかり
やわらかく やさしい
家で過ごすことが
多くなった今日このごろ、
就寝までの和みの時間を
灯したいものであります


※このブログはクリナップさんの江戸散策
「第58回 貴重な蝋燭は、リサイクルもする。」
 を参考にしました。

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