京都モダン建築祭2022 都ホテル京都:数寄屋風な"佳水園"


「"佳水園"は数寄屋建築に
 和風モダンニズムを意図」

京都工芸繊維大学工芸資料館の
委員でもある 安達秀俊さんは、
「赫奕たる村野藤吾の建築」※1で
このように切り出されています。

数寄屋造りとは、
語源の"数寄"とは和歌や茶の湯、
生け花など風流を好むことであり、
"数寄屋"は"好みに任せて作った家"。

村野さんはいつも
「私のは"日本建築"なんて
 いうものではありませんよ」
と言われていたそうです。
建築評論家の長谷川 堯さんは、
TOTO通信のインタビュー記事
そのように語られています。

「"和風"と言われるのは
 一向に構わないけど、
 "日本建築"と言われると困る」

伝統的な日本建築の正統性を
引き継いでいると捉えられるのを、
避けたかったのでは?と、
長谷川さんは振り返っています。

佳水園は20室 月9室、雪7室、
花4室が"コの字"に配置され、
玄関アプローチから廊下へ、
下足のままの洋式であり、
客室の玄関にて履物を脱ぐ
とか…

木造建築ではあるが随所に、
鉄骨、コンクリートが使用され、
ここにも村野の"素材"の使い方

見て取れるのです。
玄関アプローチの庇に
ポッカリあいた孔は、
かつて樹木の幹があったそうです。
建設の前の風景についても、
村野は配慮を忘れていなかった、
そんな痕跡でもあるのです。

村野は渡邊節事務所 在籍中に
「様式の上にあれ」※1を発表、
「様式を自由に操り尚それより
 自由に構築する」
と語っています。
そして、みずからの創作の基は
西洋様式にあるとも言っています。

「日本建築は独立前後の数寄人である
 泉岡宗助、中山悦治、中山半、
 中橋武一から学ぶ。
 和風建築も基本的約束事から、
 自由に発想するのを
 「数寄屋」と呼ぶなら、
 和式と洋式と一体化することも
 可能である。

 「都ホテル」の意匠の連続性は
 このあたりであろう。」※2
との安達秀俊さんの解説があります。

佳水園の施工者がこんなことを
語り残しています。
「…何分高所であり、
 台風時にはひとたまりもなく
 軒が吹飛んでしまいますので、
 先生に棰の断面を
 大きくして下さいと
 お願いしましたが聞き入れられず、

 断面が小さくとも
 丈夫なものを考えなさいと
 お叱りを受けました。

 考えた末、棰に背割をして
 鉄板(6ミリ☓50ミリ)を
 仕込むことで解決
し、
 先生に大変喜んでいただきました
 思い出があります。…」※3

いわゆる大工の伝統的な
"規矩準縄"に則し、
日本建築を発展させている
つもりはまったくない、
と村野藤吾の気概を感じさせる
エピソードのひとつです。

入口桧皮葺の門は、
桂離宮の"御幸門"を摸していて、
右側門柱が少し前に出ています。
客を招きいれるよう…

お庭は未公開エリアでしたが…
宴会場「葵殿」の南に広がる
回遊式庭園は7代目 小川治兵衛 作庭。
明治・大正期に7代目治兵衛、
庭師 植治の長男の白楊の、
もともとこの地にあったのが、
巨大な自然岩盤を活用した庭。

豊臣秀吉と縁のあった
醍醐三宝院の庭を模し、
白砂敷きの中庭をデザイン。

白砂の上に緑で描かれた
秀吉の馬印 徳利をあらわし、
円形は"盃"滝の水は"酒"
季節や時の移ろいを客人たちに
伝えるのだそうです。

南に山道をゆけば御百稲荷社
野鳥の森"深鳥路"へとつながり、
京の町が俯瞰できるのです。



※1「様式の上にあれ」村野藤吾
  『建築と社会』
   1919年5-8月号 日本建築協会

※2 米沢慶介さんのレポート 
  「村野藤吾の建築における階段とその思想
   ―形態・素材・装飾に着目して―」

※3 『追悼文集・村野先生と私
    / 先生と突貫の記録』

   苅郷実(元大林組)
   1986年 村野森建築事務所

※4 規矩準縄とは?
   きくじゅんじょう と読む。
   物事などの標準や基準に
   なるもののこと。 手本。 規則。

★ 京都モダン建築祭 公開データ ★
ウェスティン都ホテル京都
数寄屋風別館「佳水園」
公開日時 : 11月11日(金)のみ
公開エリア: 佳水園は外観のみ
竣工年  : 1959年(昭和34)
改修年  : 2020年(令和2)
構造・規模: 木造、一部鉄筋コンクリート造・
地上2階、地下1階
設計   : 村野・森建築事務所
改修時  : NAP建築設計事務所(客室監修)
       大林組(全体改修設計)
       全日本コンサルタント(構造改修設計)
施工   : 大林組
所在地  : 京都市東山区粟田口華頂町1

このブログの人気の投稿

異界との出入り口《春日権現験記絵》

浦賀の湊てくてくvol.1 東叶神社

浦賀の湊てくてくvol.3 西叶神社

大阪のはしばしvol.11 瑞光寺のくじら橋

唐津くんちのヤマゴヤ