太閤秀吉を辿る vol.12 十返舎一九の『化物太平記』


『絵本太閤記』には思惑が、
入り乱れているのは
淀殿の墓所でもブログりましたが、
戦国武将を化け物扱いしている…
そんな代表的なものが
十返舎一九の描いた『化物太平記』。

「発端」に男の夢に"三すくみ"の
蛞蝓(なめくじ)と

秀吉は"小蛇"
織田信長は"なめくじ"
最後に付された出版案内によると
続刊予定であり、
家康の"蛙"はそこで登場させる
予定だったのだとかと。

面白いのは秀吉、信長以外の武将たち、
虫や爬虫類ではなく"化け物"
変えらているのです。

蜂須賀小六が、橋の上で寝ていた
秀吉こと日吉丸の頭を踏むと、
それに猛然と抗議したという…
怯まない態度に見どころがあると、
小丸と日吉丸のエピソード
小六は河童に置き換えられています。

『絵本太閤記』「日吉丸見小六」

秀吉が幼少のころから
戦略的に有能だったことを証明する
「小六日吉丸が智を考ふ」では、
小六が寝ずの番をしていた
三日間は手を出さず、
大雨が降り始め、
小六が深い眠りに落ちた
その時に刀を奪うという話。

河童の最も大切なものが
しりごのたま>に置き換えられ…
尻子玉とは生き胆のようなもので、
河童の大好物とされているのです。
河童は泳いでいる人の
尻子玉を抜いて食べる…
食べられた人は死んでしまうと
考えられていたのです。
利発な若者が機転によって
貴重なものを手にいれる…


『絵本太閤記』「小六日吉丸が智を考ふ」

笄を盗んだ犯人を切り捨て
前田利家が信長の怒りに触れる
笄斬り」という事件…
猫又の利家も笄を失くし、
蛇の秀吉に疑いをかける一幕。
笄(こうがい)とは、刀の鞘に
刺しておく整髪用具のこと。

『絵本太功記』「福富平左衛門失笄」

家臣が別の家臣を切り捨てる
という利家に対して、
信長の処分は"出仕停止"…
解雇されるに通じます。
桶狭間の戦いと森部の戦い…
無断で出陣して敵将を倒す
功績を挙げ許しを請います。
利家の覚悟を伺える逸話、
"人の不遇を知る男"と、
その反面 常に二番手以下。
『化物太平記』の蛇と猫は、
秀吉と利家の関係
垣間見せているようです。

信長軍の長い槍に唖然とする
斎藤道三が描かれた『絵本太閤記』、
聖徳寺に到着した信長は、
髪を結い直し長袴姿で道三の前に…
出てきたとある。
"たわけ振り"は相手を欺くため
だったのかと肝をつぶしたという。

『化物太平記』槍の穂先の生首は、
さすがの妖怪も茫然自失か。

東海同中膝栗毛』を書いた一九は、
日本初のプロ作家とも言われています。
エリート武士の黄表紙作者と違って、
生活を原稿料に頼った一九は、
そのため流行にも敏感でした。
当時流行りの"化物"と『太閤記』
この2つを組み合わせたから、
評判は間違いなしでした…

既に絶版扱いだった『絵本太閤記』の
翻案作と見做されるに十分でした…
一九は手鎖50日の刑に処せられます。

幕府が太閤伝説を扱う文芸
神経を尖らせていたさなか、
絵の中に武家の紋所を描いたことが
処罰の直接的な原因とされています。

秀吉の太閤桐 信長の木瓜紋
蜂須賀小六の卍紋などなど、
衣装や幔幕にクッキリと。

続編が見たい気持ちが募りますが、
発刊をみなかったのです (T_T)



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