女の人の最後ばかりを綴る『源氏物語』


長編小説『源氏物語』には、
「女の死」の場面ばかり
が綴られています。
葵上も、藤壺も、夕顔も、
そして六条御息所も…
ただ国宝《源氏物語絵巻》には、
臨終の場面は見当たりません。
ただ一昨年「夕顔の死」を描いた
幻の源氏物語絵巻が発見されたのです。

《源氏物語絵巻》巻三 横笛

死の場面を絵画化したくない、
暗い場面を出したくない。
よく知る国宝《源氏物語絵巻》には、
ほとんどみられない表現なのです。

六条御息所に祟られたのか、
物の怪に魂を奪われ横たわる夕顔、
17歳の光源氏らが泣いて悲しむ…

《盛安本 源氏物語絵巻》断簡。
フランスのとある蒐集家が所蔵、
学習院大学の佐野みどり教授の鑑定。
佐野みどりさんと言えば、
虎次郎 憧れの絵巻研究者
美術誌「國華」の主幹でもあられた人。

《盛安本 源氏物語絵巻》は
江戸初期の1650年代の制作
杉原盛安の"印"があるこに因み”盛安本”、
盛安は古典文学に高い素養を持ち、
スポンサーとされる公家 九条家とも、
和歌などを通じてつながりがあって、
絵巻の奥書にある"市川光重"らの
絵師たちをとのパイプもあったとか。

《盛安本 源氏物語絵巻》「末摘花 上巻」
 1650年代 石山寺蔵

国宝《源氏物語絵巻》と対極にある
キンキラキンの世界が広がっていて、
フランスでは《黄金の庭絵巻》とも…
実は庭に漂う金雲の地の部分が、
鑑定の決め手だったそうで、
金粉を圧着するために瑪瑙で
磨いた跡の存在が"盛安本"の
最大の特徴だったそうです。

国宝《源氏物語絵巻》柏木

産褥の床に伏せっている"女三宮"…
衝立など歪なラインが走っています。
平安期の《源氏物語絵巻》では、
不吉な場面を忌避するため、
死の場面は絵とせず構図と情景
表現したともいわれています。

ではなぜ”盛安本”は、
夕顔の死が描かれたのか?
「夕顔の死を敢えて
 描こうとしたのではなく、
 原作に忠実に絵画化しようとしたら、
 描かないわけにはいかなかった…」

蔵書家だった盛安の
「すべてをコンプリートしたい」
というコレクター魂のなせるワザ
『源氏物語』54帖すべてを絵画化、
完成すれば200巻以上になったとも…

国宝《源氏物語絵巻》柏木

『源氏物語』を通読することは至難…
ただ柏木の死を唯一の例外として、
死の場面は女たちばかりで、
男たちの死を綴っていないのです。

国宝《源氏物語絵巻》御法

明石の中宮が紫の上の病床を訪ねる
シーンにて描かれている「御法」
「御法」で綴られる紫の上の死は、
『源氏物語』全体のクライマックス。
源氏が心を込めて愛した人が、
物の怪の祟りでもなく、
定命によって消えゆく露のよに。
死の床には、
源氏も、明石の中宮も、夕霧も、
囲繞 (いじょう)して看取ったという。

国宝《源氏物語絵巻》柏木

葵上も、藤壺も、夕顔も、六条御息所も、
一条御息所も、宇治の大君も、
女たちの死の場面と柏木に共通するもの?
それはあるのでしょうか。
『源氏物語』の作者の想い、
「女にとって、死とは何か」、

そして男たちを、
女を苦しめ死に追いやる
〈あちらがわの存在〉だったのだと…
光源氏の死をついに綴りませんでした、
柏木の死は死に追いやった
"光源氏"を投影しているからかも

《盛安本 源氏物語絵巻》「夕顔」断簡 部分
 1650年代 個人蔵(フランス)

半蔀や襖に穴が空いていて、
廃院がリアルに表現されています。
隣室には、駆け寄る従者もいれば、
魔よけで弓の弦をはじき鳴らす従者、
「すべてを克明に描く」ことの腐心
盛安の執念を感じさせています。


※このブログは以下の記事を参考にしました。
フランスで発見!『源氏物語』夕顔の死を
描いた幻の絵巻物・盛安本の謎を解き明かす!

源氏物語で「女の死」の場面ばかり描かれる理由

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