感傷の造形と同じ空間で・・・

多くの人の心を惹きつける
興福寺阿修羅像
清純な眼差しともに
眉間には憂愁さが漂う。
童顔というステップを
越えた少年の表情は、
世の中を見つめる
心の備えを感じさせる。








帝釈天との激しい戦いで戦闘的な鬼神。
そもそも「修羅場」という言葉は、
そのような闘争的な性格からくるもの。
非天ともいわれ、のち心を改めて仏法を守る
八部衆の一人となった。



実は阿修羅像は法隆寺五重塔釈迦涅槃土の
塑像群のなかに座像ではあるが
711年に作られた先例と言われている。



















三面六臂のバランスが巧く取られているのは、
この時代の像がいかに多感な時期に
作られたということを示すのかもしれない。


八部衆には顎をしゃくるようにして
あどけない表情をみせる「沙羯羅(さから)」、
瞑想のなかに微笑をたたえる
           「乾闥婆(けんだつぱ)」、
稚児にも紛う表情を見せる
           「須菩提(すぼだい)」、
その表情にはナイーヴな感傷を感じるのである。


いま「アシュラー」
言われる多くの女性が、
これらの「感傷の造形」
惹かれるのは、
息をひそませて感受するような
余裕を求めているのかもしれない。



脱活乾漆の
八部衆・十大弟子像14体の
お堂での公開で一人異彩を
     放っているのが、
五部浄(ごぶじょう)」
     である。












胸から下が失われているので、
興福寺国宝館や東京、九州の国宝阿修羅展でも、
接触や転倒などの事故を避けるために、
ケースに収まった形で展示されて来た。



11月23日までの
「お堂でみる」

   展示のあとは
もとの興福寺国宝館に戻され、
来春から再び
専用ケース
という
 隔たりができるという。












国宝館の 金子 啓明 館長によると、
「やはりリスクが大きい。
 露出展示は今回が最後でしょう。」


これらの乾漆像は
脱活乾漆(だっかつかんしつ)という
技法が用いられている。

土で造った原型の塑像に
麻布を張って漆で塗り固められ、
麻布が固まったあとに原型が抜き取られる。
像の内部は空洞になっているが、
空洞部分がその原型になるというわけだ。
CT撮影されてわかったことは、
構造的にかなり丈夫であるということ。
ただ1300年を経た像には無数のひびが
走っているそのひびに堂の外から
もたらされたホコリや
大気汚染物質が入り込む。

まさに観せることと保存することは、
相反すること。
少なくとも
静かに像に臨みたいものだ。


ところで阿修羅像の
原型が3次元処理された。
あらゆる角度から
像の内部を透視し、
立体画像で原型を
復元されたのを見ると、
もともとは細く厳しい表情。

朝日新聞
「阿修羅像、本当は厳しい顔つき
 CTスキャンで復元成功」より







仕上げは木の粉と漆をペースト状に混ぜた
木屎漆(こくそうるし)というもので
整えられたのだが、
まさに手で感じる造形が行なわれたということで、
木彫ではない静的な姿がもたらされた。
まさしく塑像でこそのなせる業だと思う。


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