岡山県北の雄都 津山たび〜津山と洋学


近世の江戸情緒漂う商家町、
津山の城東地区に立つ
"津山洋学資料館"。
洋学とは西洋の学問のことですが、
"蘭学"とも呼ばれたのは、
鎖国をしていたので交流のあったのは
オランダに限られていたため、
オランダ語を通してしか西洋の学術に
触れることができません
でした。

解体新書』は元はドイツの医学書
オランダ語に翻訳されたものをもとに、
日本語に翻訳されたものです。
解剖とは言わず江戸末期は、
"腑分け"とか"開臓"などと呼ばれ、
刑死体の臓器を観察する程度でした。

初めての"腑分け"は1771年(明和8)、
江戸の小塚原刑場で実施されたもの
小浜藩医 杉田玄白
中津藩医 前野良沢
立ち会いましたが、
ターフェル・アナトミア』という
同じ解剖書を持ちよった奇遇に感嘆。
緻密に描かれた解剖図と見比べた玄白、
まるで鏡に映したようにそっくりだ
と興奮し、帰る道々翻訳することを
決意したのだそうです。

"津山洋学資料館"の前に立つ銅像群、
その中で解説の碑文があるのが
宇田川 玄随(げんずい)先生の像。

玄随は津山藩医・宇田川道紀の長男、
初めは漢方医で蘭学を嫌っていたとか。
25歳のとき幕府医官・桂川甫周
仙台藩医・大槻玄沢から
西洋医学の正確さを教わり、
蘭方医に転向した人。
大槻玄沢杉田玄白らに師事し、
蘭学を修めました。

小塚原の腑分けから21年
津山で初めての開臓は、
1792年(寛政4)
10月19日の朝のことでした。
藩主の参勤交代に伴い
お国入りした藩医 玄随の願い。
ちょうどこの年、
玄随は10年に及ぶ西洋内科書
西説内科撰要』の翻訳を
終えたばかりだったそうです。

嶋崎周栄、河合玄碩、
丹治隆玄、川嶋修安
遅れて井岡洞安の5人が
参加を願い出ています。
玄随の弟子だった
町医者・田外玄洞高畠道友
助手として参加を許されました。

町奉行日記』によれば、
このとき使った道具は、
玄随が自ら準備した
ようです。
ということであれば、
おそらくは玄随の指導のもと、
江戸から持ち込んだ西洋の
解剖学書とも比較しながら、
かなり先進的な実験も
試みたのでしょう。

玄随は1797年(寛政9)に
亡くなりましたが、
跡継ぎがなかったため、
大槻玄沢らの斡旋により
宇田川を継いて
榛斎と号したのが
宇田川 玄真(げんしん)です。
稲村三伯を手伝い日本初の
蘭日辞書『ハルマ和解』の
編纂に従事した人。
箕作阮甫緒方洪庵
多くの蘭学者を直接育成、
"蘭学中期の大立者"。
膵臓の"膵"リンパ腺の"腺"は、
中国には無い国字だとか、
作字したのは玄真さんなのです。

大垣藩医の長男として江戸に生まれ、
14歳で宇田川 玄真
養子入りしたのが
宇田川 榕菴(ようあん)。
植物学書『植学啓原』や
化学書『舎密開宗』は彼の著。
オランダの地理や歴史、
西洋の度量衡の西洋音楽理論…
珈琲という字をあてたのは榕菴
オランダ語のkoffieにあてただけではなく、
"珈"は女性の髪につける玉飾り
"琲"は玉飾りの紐の意味があり、
枝に連なる
真っ赤なコーヒーの実
表しているのだそうです。
榕菴考案の"コーヒーカン"を使い、
往時の抽出法による一杯が、
飲めるのだそうです。
もう一人解説板付きの銅像、
箕作 阮甫 (みつくり げんぽ)。
津山藩医 箕作貞固の三男として
津山に生まれ、江戸に出て
宇田川 玄真に洋学を学びました。
41歳で幕府の蕃書和解御用に、
ペリーが持参した大統領親書を翻訳、
ロシア使節プチャーチンの来航時にも
外交文書の翻訳や交渉に参加。

幕府が蕃書調所を設けると、
58歳で首席教授となります。
蕃書調所は東京大学の源泉です。
資料館の洋学者のレリーフ、
赤レンガの外観は、
かつて資料館が入っていた
旧妹尾銀行林田支店
似せたものなんだそうです。
"津山洋学五峰"と称される
玄随、玄真、榕菴、箕作阮甫。
もうひとりが 津田真道という人。

津山藩の料理番の家に生まれるが、
幼少時から学問を好み、
家業を嫌って江戸に出る。
1862年(文久2)にオランダに留学後、
明治政府に出仕、元老院議官を経て、
衆議院議員・貴族院議員に。
憲法行政法学書『泰西国法論』を刊行、
1873年(明治6年) 明六社 創設にも尽力、
多くの啓蒙的論説を発表しました。

津山駅前には25歳の
若き日の箕作阮甫の立像が
建てられています。

西洋の学問を志した阮甫が、
文政六年(1823年)、
藩主に随行して
初めて江戸へ旅立とうとする、
立志の姿
なのだそうです。
お隣には明治時代に走っていた
C11型の蒸気機関車
次回は"津山まなびの鉄道館”です。

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