大津絵の伝承者たち③ 楠瀬日年


大津絵のコレクターとして、
その伝承に大きな貢献を
果たしたもう一人、
篆刻家で好事家の
楠瀬日年という人。
大津絵の代表的な
画題を模写した
版画集を1920年に
刊行しました。

楠瀬は大津絵コレクターで、
大津絵の文化を伝えたいという
気持ちから画題の記録として
刻版画を作りました。
『大津絵』の序文…
「近頃よく見うけるやうな
 時代を付けたりなんか
 するやうなことは避けました、
 なぜと云ふに
 それは世を偽る事のやうに
 思つたから。」

楠瀬は版画のサイズをすべて
タテ22cmヨコ17センチ。
柳宗悦はコレを
「見るに耐えない」
強烈に批判していますが、
楠瀬の狙いは別でした。
偽造には陥らないようにと…
珍しい画題を選んで集録、
散逸の危機にあった
大津絵の多様性の記憶を
残すことが彼の目的でした。

柳宗悦の『初期大津絵』を含め、
それ以降も確認されていない
《福神河渉》という画題。

河鍋暁斎《大津絵の東下り》
1863年頃に描かれた
暁斎百図にはパロディ大津絵
富士山を背景に
大津絵のお馴染みの
藤娘、鬼念仏とともに、
大井川を渉る姿。

《牛若丸と天狗》


楠瀬の『大津絵』序文…
「この画集を見て
こんなのがあるのかしら、
大津絵としては
余りできすぎてゐると
思われるかも知れないが、
私は只の一枚も私の作意に
なつたものもなく、
又撰択にも遺漏のないのを
期したことは明かにして
置きたいと思ふ。」

絵俳書『大津 追和気』
よく似た画題が見られます。

こちらの《萬歳》
一例しかないないとか…
大津絵独特の画題ではなく、
江戸期の文人画家が
好んで描いたもの。
与謝蕪村も《万歳図》
を描いています。

《提灯釣鐘》
 日本民藝館蔵

柳宗悦楠瀬日年
どう評するか?
柳宗悦は
美術的な観点を意識し、
造形の優れた初期の大津絵を
もっぱら蒐集した人でした。

《布袋と唐子》

一方で楠瀬は時代と関係なく、
幅広く画題の面白さ、
珍しさを重視した人
でした。
酷評した柳宗悦の立場…
楠瀬を大津絵の継承者だと
認識していたからこそ、
辛口だったのかも知れません。

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