日本人の嗜好をさぐる⑧ 釣り


《江戸名所道戯尽
  御茶の水の釣人》
 歌川広景


一本の糸を垂らして静寂を、
そして引きを感じて興奮する。
漁業という生業ではない
魚を釣る」という趣味的なもの…
これは江戸期から本格化した
ものだと言われます。

《福釣恵比寿画賛》仙厓


もともと釣りは戦運を
占う神事でした。
鮎という字は魚に占う、
祇園祭の占出山は、
別名「鮎釣山」と呼び、
神功皇后の戦勝占い
その後は…
平安・鎌倉・室町時代を
通じて釣りの記録は
乏しいのです。
《東都花暦 木場ノ魚釣》
 渓斎英泉


"遊びとして釣り" の発達は、
江戸時代になってから。
大きな要因は、
幕府のしくみの下に
寺院勢力が抑え込まれ、
仏教思想が薄れたこと

《東京名所四十八景
  大川はた百本杭》
 昇斎一景


利根川水系が運んだ土砂は
大小の洲が発達させ、
多くの魚介類を育みました。
水運用の掘割や水路網の発達が、
釣りに申し分のない環境を
生み出したと思われます。

《夕涼永代橋遊漁の図》
 三代 歌川豊国


もう一つは暇な江戸侍の存在。
時間を持て余して…
目の前が絶好の環境。

《絵本隅田川両岸一覧》
より首尾松代鉤舟
 葛飾北斎


侍たちを中心に町人へと…
ブームのキッカケは、
stay home させる理由が、
薄れていたのでしょうね。

《武蔵百景之内 大川端百本くい》
 小林清親


独眼竜で知られる伊達政宗も、
釣りがマイブーム😁
「罪も報いも後の世も忘れ
 果てておもしろや」

能の「鵜飼」にもとって、
仏教思想からの解放を
謳歌していたそうです。

《浪花百景 あみ島風景》
 歌川国員


綱吉は元禄期に
「釣魚釣船禁止令」
お触れが出しました。
漁師の漁労は認めつつも、
生魚の流通は厳しく制限。
死んだ魚ならよいが、
その場で活け締めして
売ってはいけない
…と。
夏にはすぐに腐敗が始まり、
漁師や魚屋は大弱り(T_T)

《東都名所 鉄砲洲》歌川国芳

実は…「生類憐みの令」、
十万匹にも及ぶ犬は、
マイワシの豊漁期に
重なっていなければ、
飼育できたかどうか…
鰯の干物はエサの中心でした。

《東海道五十三対
  神奈川の駅浦島づか》
 三代 歌川豊国


釣り竿の技術水準は、
当時の世界最高水準でした。
竹材を伸ばして竿にする技、
弓矢の技術が生かされていて、
ここにも平和な時代を
映し出しています。

《浪花百景 木津川口千本松》
 歌川芳雪


美しい釣り竿は漆加工
これも日本刀の鞘
漆で固める技術より…
そして(おもり)も
鉄砲玉からの転用です。

《北斎漫画 鉤の名人》葛飾北斎

最初に紹介した
歌川広景が描いた
「御茶の水の釣人」とは、
ほぼ構図は同じですが、
コチラの方がお手本かと…
竿のしなりがスゴい😁

《千絵の海 蚊針流》葛飾北斎

永平寺の道元禅師が詠まれた
漢詩に「釣月耕雲」という
言葉が出てきます。
釣りを生業とするならば
月夜にまで釣りに励み、
田畑を耕すならば
雲を突き出た山の上まで耕す。

《恵比寿図》仙厓

月を釣るとは…粋なことをする
ご隠居もいるなぁ〜
ではなくて…
そこには禅師の熱意が、
込められているとのこと。


※このブログは長辻象平さんの著された
『江戸の釣り―水辺に開いた趣味文化』、
『釣魚をめぐる博物誌』を参考にしました。

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