村野藤吾のファサード⑥ 大庄村役場(尼崎市)


尼崎市大庄西町という住宅地、
塔を備えた異彩を放つ建物…
大庄公民館」という名。

1937年(昭和12)に建設の、
もと「大庄村役場」の設計も
村野藤吾さんです。

江戸時代、尼崎の海岸部には
埋め立てられた新田が広がっていて、
綿が盛んに栽培されていたそうです。
大庄村は1889年に誕生した、
農業と漁業の村だったのですが、
その後の鉄鋼産業による発展で、
とても裕福だったとか…
立派な庁舎の理由はそんなとこ。
1階の南面外壁に貼り付いている
グリフィン」のレリーフなど、
特徴的な装飾がそこかしこに。
「グリフィン」は、鷲の翼と上半身、
ライオンの下半身を持つ伝説上の怪獣。
西アジアやヨーロッパで神話に登場の、
黄金を守る役割が持つ象徴で、
王家の紋章に使われています。

ハリー・ポッター』で登場する
寮の名前「グリフィンドール」は、
「金のグリフィン」という意味とか。
正面にも…
こちらは「鳩とオリーブ」。
塔屋には2面にレリーフ。
「レリーフには、
 旧約聖書になぞらえた村野さんの
 メッセージが隠されている」
とも言われています。
1934年の室戸台風によって、
この地に被害をもたらし、
もともと村の建築技師が
設計するはずだったところに、
村野さんに話が舞い込んだそうです。

オリーブの枝をくわえたハトが
飛んできたのを見て、
水が引いたことを知った
ノアの方舟の物語…

村野さんはレリーフなどについて、
取り立てて遺していないのですが、
きっと災害からの復興への
メッセージだったのではと思います。

塔屋の天井には太陽と星の、
レリーフがあるそうです。

京都工芸繊維大学に残された
塔屋スラブ下端彫刻図案」。
鉛筆のラフ図ながら
実現に近いカタチがみれます。



階段のアールも手抜きなし。



ファサードの話に…
この建物は眺める方向によって、
外観が全く異なります。

この建物の構造は、
大小複数の直方体を組み合わせ、
凹凸のある構造がユニークです。

裏手に回ると…
敷地に合わせてアール。



褐色タイルに肌色の窓枠

『村野藤吾の建築
 ー模型が語る豊穣な世界』での
解説にはこうあります。
「建物は、抽象的な複数の
 ヴォリュームが組み合わせられ、
 非対称の構成となっているなど、
 モダニズムの方法で
 デザインされている。」※

「煉瓦造りのような外観や塔の存在、
 建物が広場を囲んでいることは、
 村野が1930年に欧米旅行した際
 最も感動したという、
 スウェーデンのストックホルム
 市庁舎(1923)に似ている。

 初めて挑んだ庁舎建築のモデルを
 ストックホルム市庁舎に
 求めたのかもしれない。」※と…


「大庄村役場」
→尼崎市立大庄公民館
建築年:1937年(昭和12)
設計 :村野藤吾
構造 :鉄筋コンクリート造、
    地上3階・地下1階、塔屋付
所在地:兵庫県尼崎市大庄西町3-6-14
【国 登録有形文化財】

※このブログは「読売新聞 まちの宝物」 
 尼崎・大庄公民館 日本一「村役場」の面影
  を参考にしました。

※参考文献
『村野藤吾の建築ー模型が語る豊穣な世界』
 2015年 青幻舎
 大庄村役場 解説 笠原一人



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