金工たちの逞しさ~驚異の超絶技巧⑤


駒井《龍に紅葉狩図大皿》

250年以上続いた
江戸幕府が崩壊、
明治政府が生まれた。
それまで将軍家や大名家を
パトロンとして生計を
たてていた刀装金工たち。

無銘《鐘楼形時計》

明治9年の廃刀令で、
生活の糧を突然失う。
やがて殖産興業へ…
工業製品を未だ持ち得なかった
日本の重要な輸出品となった。

正阿弥勝義《群鶏図香炉(矮鶏摘)》

ツマミは矮鶏(チャボ)
赤胴※1と緋銅※2を象嵌して、
肉彫り※3している。
正阿弥勝義《群鶏図香炉(蟷螂摘)》

欧米では金工とは
ブロンズや銀の鋳造品。
こちらの摘は蟷螂
カマキリのこと
カマキリは車が近づいても
逃げないことが多いので、
當郞=当たり屋という意味が、
由来とも言われています。
蔓茘枝(つるれいし)とも言われる、
苦瓜に脚を立てています。

前足を合わせて上下させる
姿から「拝み虫」とも、
古くは呼ばれていたとか。
英語では「mantis」、
ラテン語で僧侶を意味する…
古今東西の一致がオモシロイ。
正阿弥勝義《古瓦鳩香炉》

金、銀、素銅(すあか)※4
そして赤銅を四分一(しぶいち)と
呼ぶ色金(いろかね)に、
高度な彫りや象嵌技術。
海野勝珉《棕櫚草花図花瓶 一対》

日本が国家として初めての
公式参加であったウィーン万博
金工品への称賛の声は大きく、
爆発的な人気を博したのです。
雪峰英友《菊尽香炉》

重なり合う菊の花びら…
一枚一枚を鏨(たがね)
彫り出したという。
正阿弥勝義の
《古瓦鳩香炉》に戻ります。

「樂」の文字の軒丸瓦は、
鉄の鍛造の錆付で古瓦に。
メタリックに輝くが一羽、
覗き込んだその視線の先…
鳩のクチバシと足は素銅
目と羽の文様は赤銅の象嵌。

体長およそ12mmのクモは、
銅地に金・銀の平象嵌
鳩と蜘蛛との間に漂う、
張り詰めた空気を伝えます。


※1 赤銅とは?
「しゃくどう」、「せきどう」とも読む
銅に3 - 5%の金を加えた合金のこと。
発色処理を加えると、青紫がかった黒色を呈する。

※2 緋銅(ひどう)とは?
古来より武具の装飾などに用いられてきた伝統技法。
磨いた純銅を限界まで熱して、いいタイミングで
ホウ砂水溶液の中で急冷することで、
銅本来の特殊な緋色の皮膜を定着させる技法。

※3 肉彫とは?
にくぼり、ししぼりとも読む
立体的な彫金技法である。金属を彫りくずし、
立体的表現をする丸彫りと、金属板を裏から打出して高肉とし、
表面から細部を彫刻したものとがあります。
肉取の高いものを高肉彫りといい、薄いものを薄肉彫り。

※4 素銅(すあか)とは?
素銅という言葉は、刀剣関係で今は普通に使用するが、
江戸時代には使われていなかったようです。
『日本刀大百科辞典』によると…
「まじりけのない銅、つまり合金になっていない銅、
 またはメッキや色着けがしていない銅。
 赤銅や山銅の対語。装剣具の材料に使われる。」
「山銅」には、自然銅と合金によるものの二種があり、
山から出たままの銅には不純物を含んでいるが、
江戸期のものは「素銅」に鉛・砒素・アンチモンなどを混ぜ、
使用目的に適した合金として作られたとのこと。

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