日本人の嗜好をさぐる⑰ 茄子
《一富士二鷹三茄子》 白隠
富士は「無事」鷹は「高い」、
茄子は「~を成す」に通ず。
家康が好んだ縁起ものとも…
《米俵と大黒さんの
一富士二鷹三茄子》
なすの原産はインドで、
文献から奈良時代には
すでに日本での栽培が
記録されています。
平城京出土の木簡には、
粕漬けのなす
「韓奈須比」の進上が、
記されています。
元々の名前は「なすび」。
『五畿内産物図会』より
宮前大根・本庄茄子・吹田慈姑
「なすび」が「なす」と
呼ばれるようになったワケ。
室町時代の女房詞にルーツ、
女房詞とは、宮中に仕える
女房たちが使っていた
いわば隠語のようなもの。
のちに将軍家の多くへ、
そして町家の女性たちに
広がったようです。
《台所美人》 喜多川歌麿
なすびの語源には他にも諸説あって、
夏に実がなることから「夏実」、
酸っぱい味がしたから
「中酸実 (なかすみ)」と呼ばれ、
「か」が省略されて転化したとも。
"なす"という女房詞が登場したのは、
室町時代の調度などが置かれた
御湯殿に仕える女官の日記、
『御湯殿上日記』にみられます。
「松木より なすの 小折まいる」
との記録がみえるのは、
文明15年(1483年)のこと。
《初夢見立》 喜多川歌麿
「なす」は江戸の人たちには、
とても人気でしたので…
縁起物として人気を博し、
一般的になったそうです。
一に富士山、二に愛鷹山、
三に初なすの値段と、
駿河国で高いものを並べたとも。
徳川家には駿河で栽培されていた
折戸なすが献上されていました。
《なす 雀園竹世》魚屋北渓
茄子でよく聞くコトバ、
「秋茄子は嫁に食わすな」。
美味であるから他家からの
憎い嫁に食わせるなとの、
嫁いびりの格言と知られますが、
茄子は食べ過ぎるとカリウムの
利尿作用により体温が下がり、
体の冷えが婦人病を
起こしやすくなるため、
姑が嫁の身体を気遣い
生まれた言葉というのが、
実は本当の意味なんだそうです。