《春日権現験記絵》にみる巫女の姿


《春日権現験記絵》巻一第一段の冒頭、
橘氏の娘に春日大明神が取り憑き
託宣したことが記されています。
春日大社に橘氏の娘という巫女
常駐していたらしく、
時代を隔てて何度も登場するのです。
一代限りの一人の女性をささずに、
橘氏の娘として代々継いでいく…
巫女の家筋が存在していました

《春日若宮御祭礼絵巻》上巻より
 奈良・春日大社

春日大社は民間の芸能民との縁が深く、
"おん祭"ではさまざまな舞が奉納、
芸能民の一つに 遊女(あそびめ)がおり、
"遊女"が雑芸や鼓打ちなどを
担っていたことが知られています。

《法然上人絵伝》より

梁塵秘抄』に「遊女(あそび)の好む物、
雑芸、鼓、小端舟、簦翳(おほがさかざし)、
艫取女、男の愛祈る百大夫。
遊女たちは、宿場町や船の発着のある宿場で
芸を披露し、お客をとっていたのです。
《法然上人絵伝》の室津の遊女
イメージさせる事物が並んでいます。

映画『君の名は。』でも巫女さん姉妹、
くるくると回転しつづける舞、
神を憑依させ、神のことばを託宣する
ただなんとなく巫女は若い女性
決めつけているのはナゼでしょうか。

《春日権現験記絵》巻四第四段…
若宮の拝殿で舞を舞っている
巫女が神がかりして託宣をする話、
続く第五段にも若宮の前で集って
神楽を舞っている巫女から託宣を得る。
よく知る"巫女"の姿を「験記絵」で、
みつけることはできない
のです。

《春日権現験記絵》に居る "こどもたち"
で登場させたこのシーン。
蛇をいじめていた子どもが重病におち、
護法占(ごほううら)をすると、
春日大明神が憑依したという。
春日大明神を神降ろしした者とは、
"鼓巫女"だったというのです。
手前の部屋で大きなお櫃を台として、
塩をのせた盆が置かれています。
その脇に鼓を前に置き、
病人を指さしている性別不詳、
実はこの老女が巫女の姿なのです。
老女の向かい背を向ける男は、
数珠の輪を繰る山伏の姿。

この巫女は巻十五第二段も登場、
詞書によると…
ある僧侶が春日大社で居眠りしている
お坊さんの頭を足で蹴飛ばしたことろ、
病気になったので巫女を呼んで
春日大明神を降ろしてみると、
「助けることはまかりならん」と。
実はこのお坊さんは一心に
仏典を学んでいた春日大明神
奥の間に病に苦しむ僧侶の姿を、
手前に呼ばれやってきた巫女は、
塩を盛った漆塗りの高坏を前、
鼓を打ちながら何か語っています。
貴賤を問わず、病ともなれば、
市井の鼓巫女を呼んで、
神を降ろして託宣してもらった
のです。

中山太郎氏の『日本巫女史』によると、
"巫女"という存在は、
古代祭祀が中心であった頃は、
身分の高い女性が担い手でしたが、
儒教や道教によるな先進祭祀?により、
神職神主は男性の役割となって、
補助的ないわゆる"巫女さん"へ
と変化したのだとみられています。
神社などに所属の巫女は定住しますが、
いわば自営の巫女たちは、
流浪の漂泊民となったようです。
《年中行事絵巻》にみられる"鼓巫女"も、
そのような存在であったと思われます。

《石山寺縁起絵巻》巻五第一段より

『梁塵秘抄』によると、
巫女の使う神降ろしの道具、
鼓のほかに、鈴、弓などもあった。
にもかかわらず、
「験記絵」が徹底して鼓巫女を
描きつづけたのは理由はどこに?

『梁塵秘抄』
寝たる人うち驚かす鼓かな、
 いかに打つ手の懈(たゆ)かるらん

石山寺が夢を見るために籠もる寺とも、
その眠りを覚ますように
盛んに鼓を打つ巫女。

フォーカスすると…
石山寺の門のところに、
鼓を打つ巫女が座っています。
江戸期の補作もあり原画は不明ですが、
詞書には鼓巫女のことは触れず…
石山寺のモチーフとして描かれているとか。

最後に《東北院職人歌合絵巻
共に神意を占なう「職人」として
対にされているのは"博打と巫女"。
実は中世的世界では、
博打も一芸として認められていて、
巫女は鼓と念珠を下げ、
神社の初々しい"巫女"の姿とは真逆…
双六は白河法王をはじめに上下貴賎に
大流行したといわれています。

博打は双六盤を持ち、勝負に負けて、
身包み剥ぎ取られた姿…

"歌合絵巻"なので歌がつきます、
我こひ(恋)は かたおくれなる
 すぐろくのわれても人に
 あはんとぞおもふ
」と博打打ち。
百人一首にもある崇徳院
瀬をはやみ 岩にせかるる
 滝川のわれても末に
 逢はむとぞ思ふ
」にもとるのか。
年老いた巫女の歌
「君とわれ くちをよせてぞ
 ねまほしき 皷もはらも
 うちたたきつつ」

すさまじい世界が広がっています。

顔をみせない神の描き方《春日権現験記絵》
からの再登場のシーン。
春日の夢告があったようで…
いやはやなによりです(笑)

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