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術か?技か?その先に~驚異の超絶技巧⑧

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臼井良平《Untitled》 From the series "PET" ペットボトル というカタチ、 ガラスで造られています。 タイトルの"PET" Portrait of   Encountered Things … 日常の中で  遭遇したものの肖像 と、 意味を重ねる作品。 臼井良平《Water》 ビニールの結び目の 造形がみどころ… 磨きの調子に変化があり、 上部に至るとこれが ガラスということが分かります。 本郷真也《流刻》 部位別に造形したのち、 溶接によって一体化。 酸をかけて強制的に錆、 自然に生じる色むら。 超絶技巧で一番の 瞠目 は、 安藤緑山 の牙彫でしょう。 ただこれまで 緑山 の 知名度は“まったく” でした。 瞠目とは… 「驚いたり感心したりして、  目をみはること。」 【漆工】柴田是真《古墨形印籠》 ただ絵画史においても、 画家がその存在を声高に 主張するようになるのは、 室町時代の 明兆 、 雪舟 あたりから… そして「 美術 」という概念は、 西洋移入されたものでした。 「職人仕事」は 「美術」なのか?? いかに見間違えさせるか! おそらく明治の超絶技巧は、 その技巧を求める人に、 どう応えていくかの シゴトでした。 【陶磁】稲崎栄利子《Arcadia》 現代において 明治の工人 に どう比肩していくのか? 「伝統工芸」の権威 に 連なっていくポジションが 薄れていく中… それを手造りで! それに意味はあるのか? 更谷富造 《独歩》 気が遠くなるような 労力が費やされ、 権威に連なることなど まったくなく、 日々、制作に どう邁進していくのか… 春田幸彦 《有線七宝   錦蛇革鞄置物「反逆」》 山口英紀《往来〜丸の内》 紙本著色…と キャプションにあるが、 モノクロ写真としか見えない。 鉛筆画でもなく水墨画… 正確には写真のヴィジョンと 紙と墨とが融合した 新しい超絶技巧です。 山口英紀《右心房左心室》 反転しているから、 ひょっとしたら、 3Dなのかな?と 眺めていたのですが… 道には一台も走っていません。 道路を血管に、 車の流れを動脈と静脈の 血流に見立てた作品。 リアルにはないものが、 それがココにあ

蟄からの蠢き~驚異の超絶技巧⑦

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更谷富蔵《夏の記憶》 そろそろ虫たちが 出てくる季節ですね。 春の二十四節気には、 「立春」「雨水(うすい)」… そして「 啓蟄(けいちつ) 」。 正阿弥《瓢に蜂花瓶》 その次は「 春分 」… 「清明」「穀雨」と続きます。 大竹亮峯《飛翔》 蟄虫 とは… 地中にこもって 越冬する虫のこと。 啓 は「 ひらく 」の意。 大竹亮峯《勝虫》 織田信長 の兜の前立て、 その一つに トンボをモチーフに したものがあります。 トンボは前に進めても、 背を向けて、 後退する事が出来ない のです。 古くは… 雄略天皇 が吉野に出掛けた時、 アブに腕を刺されたのですが、 その アブをトンボが咥えて 飛び去っていったとのこと。 敵を屠る味方 というイメージ、 強くて縁起が良い虫の所以です。 本郷真也《柿に雀蜂》 本郷真也《葉に蟷螂》 ふたたび カマキリ 「蟷螂の斧を以て  隆車の隧を禦がんと欲す」 という中国の故事がある。 足利義詮 に挑んで戦死した 公卿 四条隆資 の戦いぶり… 四条家の御所車に 蟷螂を乗せて巡行した 祇園祭の山鉾・ 蟷螂山 の由緒。 高瀬好山《鍬形》 宗義《蜂》 満田晴穂《自在十二種昆虫》 自在 という用語は実は新しく、 1983年の東京国立博物館で 開催の「 日本の金工 」展で、 原田一敏 東京藝術大学教授が 初めて使われたのだそうです。 明治以来の自在の技法を しっかり受け継ぎ、 腹や顎など、 本来の昆虫が 動く部分は、 ほぼ全て可動 するとか。 まさに 「 蠢き 」が自由自在 という代物なんだそうです。 満田晴穂 さんは、 東京藝術大学の 彫金研究科に学んだが、 在学中に出会った、 高瀬好山 の系譜を引く 京都の 冨木宗行 に入門、 明治工芸の超絶技巧の 遺伝子を引き継ぐ人。 さらなる挑戦を期待しましょう。

七宝・二人のナミカワ~驚異の超絶技巧⑥

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並河靖之《藤図六面花瓶》 七宝の技法は幕末から明治に かけて大転換期を遂げた、 「 有線七宝 」がソレ。 薄くリボン状の金属線を貼って 文様の輪郭線を作り、 釉薬を差して窯で焼き付ける。 濤川惣助《波濤鷹図盆》 もうひとつが、 色の境目を区切る金属線を、 釉薬をさした後に取り除く 「 無線七宝 」。 安藤重兵衛《月に時鳥図花瓶》 「 にじみ 」や「 ぼかし 」の 視覚効果がうまれて、 七宝に文様表現の 新機軸をもたらしました。 並河靖之《紫陽花花図花瓶》 並河靖之 は幕末の京都に生まれ、 武家の出身ですが生活は苦しく、 明治になって 副業 として 七宝焼を始められたそうです。 並河靖之《花文飾り壷》 濤川惣助《舟鷺図皿》 濤川惣助 は千葉県の農家出身、 陶磁器を扱う 貿易業を営んでいました。 彼は 1877年、 殖産興業の一環として 日本初の博覧会が開催、 その会場で 靖之の七宝焼 に… 魅力に取りつかれて一念発起。 2年にわたる修練ののち、 生み出したのが 「 無線七宝 」なのです。 並河靖之《蝶に花の丸唐草文花瓶》 七宝焼は重要な輸出産業で、 技術力が低かった工業製品の 輸出では利益が出なかった、 その代わりに手作業による 美術品・工芸品が要でした。 並河靖之《蝶に桜図香合》 明治期の美術工芸品は 日本国内に残っている 数が少ないのです。 並河靖之《花文飾り壷》 「 超絶技巧 」という言葉は、 2014年開催の 「 超絶技巧!明治工芸の粋 」 からだと思います。 かつてその多くが 海外に流出してしまった 素晴らしい明治工芸を、 ここ30年ほど 精力的に買い戻して 収集されて 「 村田コレクション 」、 京都・ 清水三年坂美術館 の 所蔵品がベースになっています。 並河靖之《蝶図瓢形花瓶》 七宝の「 二人のナミカワ 」に 話に戻します。 有線と無線の対決が 東京の迎賓館赤坂離宮 「 花鳥の間 」。 濤川惣助《芙蓉に鴨図花瓶 一対》 壁を七宝の作品で飾る 計画が持ち上がると、 その候補に… 並河靖之 と 濤川惣助 の二人。 どちらに軍配?? その答えは、 迎賓館赤坂離宮のHP で… ※このブログは「 美の巨人たち 」の番組を参考にしました。 並河靖之「蝶図瓢形花瓶」 濤川惣助「七宝富嶽図額」

金工たちの逞しさ~驚異の超絶技巧⑤

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駒井《龍に紅葉狩図大皿》 250年以上続いた 江戸幕府が崩壊、 明治政府が生まれた。 それまで将軍家や大名家を パトロンとして生計を たてていた 刀装金工 たち。 無銘《鐘楼形時計》 明治9年の 廃刀令 で、 生活の糧を突然失う。 やがて 殖産興業 へ… 工業製品を未だ持ち得なかった 日本の重要な輸出品となった。 正阿弥勝義《群鶏図香炉(矮鶏摘)》 ツマミは 矮鶏(チャボ) … 赤胴 ※1と 緋銅 ※2を象嵌して、 肉彫り ※3している。 正阿弥勝義《群鶏図香炉(蟷螂摘)》 欧米では金工とは ブロンズや銀の鋳造品。 こちらの摘は 蟷螂 … カマキリ のこと カマキリは車が近づいても 逃げないことが多いので、 當郞=当たり屋 という意味が、 由来とも言われています。 蔓茘枝(つるれいし) とも言われる、 苦瓜 に脚を立てています。 前足を合わせて上下させる 姿から 「拝み虫」 とも、 古くは呼ばれていたとか。 英語では「 mantis 」、 ラテン語で僧侶を意味する… 古今東西の一致がオモシロイ。 正阿弥勝義《古瓦鳩香炉》 金、銀、 素銅(すあか) ※4 、 そして赤銅を 四分一 (しぶいち)と 呼ぶ 色金 (いろかね)に、 高度な彫りや象嵌技術。 海野勝珉《棕櫚草花図花瓶 一対》 日本が国家として初めての 公式参加であった ウィーン万博 。 金工品への称賛の声は大きく、 爆発的な人気を博したのです。 雪峰英友《菊尽香炉》 重なり合う菊の花びら… 一枚一枚を 鏨(たがね) で 彫り出したという。 正阿弥勝義の 《古瓦鳩香炉》 に戻ります。 「樂」 の文字の軒丸瓦は、 鉄の鍛造の錆付 で古瓦に。 メタリックに輝く 鳩 が一羽、 覗き込んだその視線の先… 鳩のクチバシと足は 素銅 、 目と羽の文様は 赤銅 の象嵌。 体長およそ12mmの クモ は、 銅地に金・銀の 平象嵌 。 鳩と蜘蛛との間に漂う、 張り詰めた空気を伝えます。 ※1 赤銅とは